着物・浴衣・民族衣装


写真:優良メンテナンス店による着物のクリーニングの様子。

絹(シルク)の着物は、着付けの難しさや動きづらいことよりも、万が一汚れてしまった時の手入れがとても難しいので、着用をあきらめてしまう場合もあります。

少し汗がついてしまっただけ、少し飲み物の汚れがついてしまっただけで、ほうっておくと正絹の着物はすぐ変色を起こします。
ポリエステルや綿の洋服よりも、はるかに傷みやすいのです。

その上、着物の購入価格は、洋服の何倍も高価です。
100万円~500万円クラスの訪問着や付け下げ、振袖を汚して、着られない状態にしてしまったら、持ち主の方はとてもショックでしょう。

しかし万が一汚れてしまっても、上質なよい着物なら「プロのお手入れにコストと手間をかけるのは、とても有益なことである」ともいえます。

100万円以上の手描き友禅などは、クリーニングでケアしながら長く大事に楽しめば、いずれ娘さんやお孫さんがヴィンテージ着物として大切に受け継いでいってくれるかもしれません。
着物をキレイなまま長く保管するためには、良いクリーニングをしてあげることが重要です。

しかし一般的な多くのクリーニング店では、着物にとって最善の方法でクリーニングをしている、とは言い切れません。

実は、良かれと思って依頼しても、依頼したクリーニング店が行っている方法によっては、キレイにならず汗や汚れが残り、時間経過とともに変色が起きてしまう…ということもあるのです。

それでは、優良クリーニング店による着物・和服・民族衣装のクリーニングとは、どのようなものなのでしょうか?

優良店による着物のクリーニングの特長
丁寧な検品作業で着物のどこに汚れがあるか把握する
着物についた汚れ・黄ばみや汗ジミ・食べ物・飲み物のシミなど、どこにどんな汚れがあるか確認してしっかりと把握する。この作業を「検品」という。
的確な「前処理」でシミや汚れを先に落とす
検品で把握したシミや汚れを「前処理」できちんと除去しておく。シルクの着物に最適の「前処理」としては、水を使った処理とドライクリーニング溶剤を使った処理がある。
汗汚れ・食べ物/飲み物の汚れがひどい着物は出来る限り「水洗い」を選ぶ
正絹の着物は、基本的にはドライクリーニングで洗うことが多い。しかし、食べ物や飲み物のシミがひどくついたものや、汗汚れ・汗ジミがひどいものには、出来る限り、汚れ落とし効果の高い「水洗い(手洗い)」を施す。
クリーニング職人による手作業のアイロンでキレイに整えて仕上げる
アイロンがけは、プレスマシンではなく細やかな手作業で行う。クリーニング職人が業務用スチームアイロンの蒸気を微調節しながら、美しく整えて仕上げる。

着物クリーニングの優良店ほど「検品」に時間をかけてきちんと状態を把握する


写真:優良メンテナンス店による正絹の着物の検品。にじんだような薄いシミを発見。

クリーニングの「検品作業」をご存知でしょうか?

お客さんから預かった品物の状態を、クリーニング職人が丁寧に確認して、細かく把握していく作業です。

着物であれば、どこにどんなシミがついているのか、どんな汚れがついているのか、どの程度の汚れなのか、正絹が日焼けしていたり、劣化していないか、縫い目がほつれている箇所はないか、裾や袖口の状態は傷んでいないか…これらの確認事項を、しっかりとチェックするのです。

検品台と呼ばれるテーブルに着物を広げ、高画質カメラで写真撮影する、という検品を行うこともあります。
高画質カメラで着物を撮影しておけば、検品後にも撮った写真を画像拡大して確認することができます。
ヒトの目では見落としてしまうような細かいシミ、小さなほつれや薄い汚れも、画像を拡大してしっかりと把握できるのです。


写真:優良クリーニング店の検品台に備え付けられた高画質カメラで、衣類を撮影している様子。着物でも同様に、検品台の上に広げて撮影し、撮った写真を検品に利用する。

そして洗浄前の着物の状態を、高画質の写真として記録に残せるので、洗浄後にキレイに汚れが落ちたか確認することもできます。

また、着物の検品の結果は、チェック表のような「検品表」を使って、詳しくデータとして書き残しておくこともあります。

着物クリーニングに力をいれているよいお店ほど「検品」を大切にしています。

なぜなら、着物のどこにどのような汚れがあるか、いま着物がどういう状態なのか知らなければ、それに合った的確なクリーニングはできないからです。

着物の状態を把握できたら、クリーニング職人とスタッフの間でその情報がしっかりと共有され、次の作業が始まります。

優良店はその着物に最適の「前処理」を施し、シミや汚れを先に落とす


写真:優良クリーニング店の着物の前処理作業。ドライクリーニング溶剤を使う。

お母さまやお祖母さまの着物を、何年という長いあいだタンスにしまっていたら、黄色っぽく変色した斑点が何個もついてしまってとても着られない状態になっていた…。

こんな経験がある人も多いのではないでしょうか。

これは、着物に残留した汗や汚れの成分が原因です。
正絹(しょうけん)の着物に、シミや汚れ、汗などが少しでもついてしまったら、できるかぎり早く汚れを落とすべきなのです。

なぜなら、放っておくと汚れの成分が酸化して変色し、プロの技術でも除去することのできない状態へ変質してしまうこともあるからです。

(※時間経過とともに酸化して、変色してしまった汚れ・シミは、優良店のプロによる処理では基本的に“漂白処理”をして対処します。酸素系漂白剤を変色ジミに塗布し、ドライヤーを使って若干の熱を加え、シミが浮いてきたら洗い落とすという処理を行います。)

検品した結果、お客さんからお預かりした着物にシミ・汚れが見つかったら、プロのクリーニング職人は、まず「前処理」を行います。

クリーニングの「前処理」とは、シミや黒ずみ、黄ばみや汗ジミなどの箇所に、ピンポイント的に洗浄やシミ抜きをしておく作業を指します。
その後、全体をキレイに洗い上げる「本洗浄処理」を行います。

前処理では、さまざまな工夫をして汚れ・黒ずみ・シミなどを効率的に除去します。

たとえば、飲み物のシミがある絹の着物の場合には、まず、「水を使えるか、使えないか」を考えて判断します。

詳しくは後述しますが、絹の生地の織り方や表面の柄の染め方によっては「水洗い」ができない着物もあるのです。

そのような場合は「水は使えない」と判断し、「前処理」も水ではなく「ドライクリーニング用の溶剤」を使うのです。

まずはドライクリーニング溶剤に少し多めに界面活性剤を混ぜ合わせて洗浄液を作り、シミのついている部分になじませます。

そしてドライクリーニング溶剤専用ブラシでブラッシングし、少しずつ汚れを浮かし出してシミを除去するのです。

写真:優良クリーニング店の正絹の着物の前処理。丁寧なブラッシングで汚れを落とす。

もちろん「水が使える」と判断した場合には、優しい中性洗剤の原液を馴染ませてブラッシングしたり、水で薄めた洗剤溶液を使って「前処理」をすることもあります。

優良店の着物クリーニングでは、シミや汚れを落とすことによって着物が傷まないよう、細心の注意を払います。

正絹の和服は「世界一デリケートな民族衣装」とも言えるほど、ダメージを受けやすい繊細な衣服です。

ついてしまったシミはキチンと落としながらも、着物のシルク素材に刺激を与えないようにしなくてはならないので、「前処理」では特にクリーニング職人の腕前が試されるのです。

優良店は、汗汚れ・食べ物/飲み物のシミがひどい着物にはできるかぎり「水洗い」をする


写真:ドライクリーニング機で着物を洗う様子

正絹の着物なら、プロのクリーニング職人によるスタンダードな洗浄方法は「ドライクリーニング」です。

「ドライクリーニング」とは、石油由来の溶剤を使って洗う方法です。
とてもデリケートで、水で洗うと縮んでしまったり、傷んでしまう、布地や縫い目の糸・刺繍の部分がダメージをうけてしまう…そんな衣服を洗いたいときに使われる方法が「ドライクリーニング」なのです。

「へえ、デリケートな衣服も傷むリスクなく洗えるんだ。それならどんなものでも、どんな着物でもキレイにできる魔法のようなクリーニング方法が、ドライクリーニングなのかな?」と考える人もいるでしょう。

しかし、そうではありません。ドライクリーニングにもいくつかのデメリットがあるのです。

まず一つ目が、「食べ物や飲み物のシミは落としにくい」ということです。
界面活性剤(洗剤)を使って水にさらして洗うよりもマイルドで刺激がない分、ドライクリーニングは洗浄力も弱いのです。

そして2つ目は、「汗汚れなどの水溶性の汚れはほぼ落ちない」ということです。

ドライクリーニングは油性の「石油由来溶剤」を使って洗うので、油汚れはよく落ちますが、ミネラルや水分で構成された汗のような「水溶性汚れ」は、ほぼ落とすことが出来ないのです。

したがって、優良店のクリーニングでは「食べ物や飲み物の汚れ」「汗汚れ」がひどい、そのような汚れが広範囲についている着物の場合には、汚れ落とし効果の高い「水洗い」を出来る限り選ぶようにしています。

写真:着物着用のイメージ

しかし、高級な着物には、一点物の友禅染のような品もあります。

柄の染め方によっては、いくらひどく汚れが付いていても、とても繊細なので「水洗い」が不可能…というものもあります。

そういった場合は、前述のようにドライクリーニング溶剤を使って、丁寧で念入りな前処理をして、全体は優しくドライクリーニングで洗って仕上げることもあります。

優良クリーニング店は、正絹でも、複雑な柄がないワントーンの色味の着物など「水洗い」がなんとか可能そうな着物の場合は、3つほどの方法の中から、最適の洗浄法を選びます。

一つ目は、シャワーの水流を利用して着物を洗う「アクアシャワー方式」、二つ目は「マイクロバブルウォッシュ方式」のマシンを使用した洗浄処理、三つ目はクリーニング職人による「手洗い」洗浄です。

「アクアシャワー方式」は、着物全体をじゅうぶんに洗浄剤に浸してから、シャワー水流にあてて、優しく汚れを流して洗い上げる洗浄法です。
刺繍の柄がある着物や、金箔を施した着物はデリケートなので、ダメージを与えずに洗うことができる「アクアシャワー方式」を採用します。

二つ目の方法の「マイクロバブルウォッシュ方式マシンを使った洗浄」とは、ミクロサイズの泡(バブル)を発生させるマシンで、着物を洗う方法のことです。
ウォッシュマシン内の水中で細かな泡を作ることによって、着物の生地が水と直接接触する面積を減らすことができます。このように泡の力を利用することで、水に弱い正絹の着物でも、ダメージを与えずにしっかりと水洗いして仕上げられるのです。

また、三つ目の方法の「手洗い」は、短時間のつけ置き洗いや優しいふり洗いなど、なるべく物理的な刺激を与えないように行われます。
もちろん、シルク素材に優しい専用洗剤を使用し、クリーニング技術者が丁寧な手作業で洗っていくことになります。

しかし残念なことに、このようにクリーニング職人が考えに考えて最適な洗浄方法を選んで、丁寧に優しく着物を洗ったとしても、じつは「落ちない汚れ」というものは、「ある」のです。

前述の「着物をタンスにしまいっぱなしで、時間が経って酸化して変色してしまったシミ・汚れ」は、落としにくい汚れの代表格のようなものです。

酸素系漂白剤を使って漂白しても落ちず、これ以上、汚れを落とすためゴシゴシとブラッシングしたり漂白剤を使ってしまうと、絹(シルク)の生地表面が傷むことは避けられない…。

そのような場合は、まだひとつだけ、対処法が残されています。

一部の着物クリーニング店では、「色掛け」や「絵付け」といった方法を提供していることがあります。

「色掛け」「絵付け」は、「着物についている、クリーニングしても落ちないシミや汚れや変色」を、上から色をつけて染め上げることで隠してしまう方法です。


写真:着物の「色掛け」作業。汚れやシミの箇所を、染めて隠す。

着物の柄に合わせてキレイにシミの部分を染めて隠していく技術は、専門的な知識が必要な職人技です。

そのため、着物クリーニング店のなかでも、専門技術者が在籍するごく一部の優良メンテナンス店しか取り扱いがないのが現状です。

「プロのクリーニング技術でも落ちない汚れ」の対処法としては最終手段とも言えますが、巧みな「色掛け」「絵付け」は大抵のシミをキレイに隠すことができるので、これ以上効果的な方法はないでしょう。

優良店の着物メンテナンスの仕上げは、技術者による「手作業アイロン仕上げ」


写真:優良クリーニング店による着物の仕上げ作業。業務用スチームアイロンで、丁寧に整えていく。

しっかりと洗い上げた着物・和服・浴衣には、仕上げにアイロンをかけていきます。

優良店の着物クリーニングの仕上げアイロンは、はじめから終わりまで、すべて手作業で行われます。
クリーニング職人が業務用スチームアイロンを駆使して、細かなシワをのばし、キレイな形へと整えるのです。

優良店の工場にある着物のアイロン台は、とても大きな台です。
着物の中では大きい婚礼衣装や振袖も、しっかりと広げてアイロンがかけられるように、大きなアイロン台を備え付けてあるのです。

プロによる着物のアイロン仕上げ作業では、「裏側からのアイロンがけ」が一つのキーポイントとなっています。

写真:クリーニング職人による、着物の裏からのアイロン仕上げ作業。

デリケートな表生地に直接アイロンの熱をあてるのではなく、和服の裏にアイロンをかけることでしっかり形を整えていき、細かなシワをのばすのです。

このようにして、裏側からアイロンをかけて、着物を美しい形に仕上げることは、実は至難のわざです。
アイロンをあてるたびに表側をめくって確認するわけにはいかないので、表がキレイに整うように、カンを働かせて裏から調整していかなくてはいけないのです。

優良店の技術者による着物のアイロン仕上げも、職人技といえる高度な技術によって支えられている、ということなのです。

世の中では「ものをゼロから作り上げる」という職人にはとても注目が集まりやすいものですが、シミや汚れをキレイに落とす着物クリーニング職人の技術の高さや修行の難しさについては、あまりスポットライトが当たることはありません。

着物のクリーニング・洗浄作業じたいも、間違いなく職人技なのですが、なにかを作り上げるということではないので、ものをゼロから作り出していく職人とは、また違った難しさもあります。

ついているシミを落とす、汗汚れをキレイに洗い落とす、着物の色掛けをして補修する…優良店による着物クリーニングは、実に繊細で細やかな作業であり、丁寧で誠実な取り扱いが求められる技術なのです。

お客さまの大切な着物を預かり、しっかりと手入れしてお手元に戻す。

クリケアは、“クリーニング業”という業種に誇りを持ち、どこまでも美しく仕上げることにこだわる優良店を応援しています。

そんなお店と手を取り合って、さらに「ファッションケア」をおもしろいものにしていきたいと考えています。